影からうまれた形。Froffyのデザインのはなし

影からうまれた形。Froffyのデザインのはなし

ezuがはじめてシャンプーのデザインを手がけました。株式会社BeBlockさんがつくる夜のオールインワンシャンプー、Froffy(フロフィー)。2026年10月1日に発売された360mlの一本のロゴ、ボトルとラベル、円筒の外箱、ウェブサイトで使う素材を、ezuのデザイナー岩野久美子がデザインしました。

Froffyはシャンプー、コンディショナー、トリートメントの役目を一本にまとめた製品です。髪をケアする時間を引き算して空いた時間を、「あしたの余白」と呼んでいます。

Froffyのチームがこの一本を最初に向けたのは、お風呂に入りたいのに入れない日がある人でした。岩野は企画の始まりをこう話します。「お風呂に入りたくても入れない人が頑張って入ったときに、癒されたり解放されたりする。そういうものをつくろうというところから始まっています。その人のよりどころというか、お守りのような役目をシャンプーが担っている」。その考えを文字と紙とボトルのかたちに翻訳するまでの記録です。

Froffy の外箱を開けたところ。内側の筒にも、ラベルと同じ手書きの文字とにじみ

影からうまれた形

最初にできたのはロゴでした。文字は影から生まれています。岩野はこう言います。

「影のように感じる今日も、しっかりと光を含んだ美しい形をうみだしている。影から浮かび上がるFroffyという文字のように、気持ちが浮き上がるようなヘアケア体験をしてもらいたい。その想いをロゴに込めました。洗い上がったあとに、髪も気持ちもフワッと軽く浮かび上がる。そんな感覚を感じていただけたら」

Froffy のロゴ。影のかたちで浮かび上がる文字

文字の土台にしたのはアール・ヌーヴォーです。自然から想起された線を特徴とする芸術様式で、陰と陽、凹と凸から生まれる世界観を髪と身体の曲線に重ねて文字に落とし込みました。

アール・ヌーヴォーは産業革命のあと、機械的な量産で芸術性が下がったことに対して職人の技と自然の美を重んじる運動として生まれました。岩野はその背景を今につなげて考えています。「AI化、量産化が進んで極まってきた今の社会のなかで、人の心が本能的に自然と芸術の世界に救いを求めている。そういう集合意識のようなものを感じます。それを踏まえて今回のデザインをつくりました」

デジタルの線と手の線のあいだで

ロゴはごく少ない本数の線だけで組んでいます。ボトルにも紙の箱にも、これから生まれるかもしれない品にも馴染むようにするためです。

そのうえでひと手間を加えました。デジタルで描いたロゴを一度紙に転写し、ガラスペンとインクで手描きでなぞり、もう一度デジタルに戻す。この往復をあえて踏んだ理由を岩野はこう言います。「シンプルな中にも目に映ったときに引っかかる部分を持たせたかった。デジタルな電気信号から作られる正確な線と、人の手からうみ出される不確かな線。その交じり合う一点、ニュートラルな地点に着地したと考えています」

正確な線だけならどこにでもある文字になります。手の線だけならボトルや箱の素材ごとに表情が変わりすぎます。ふたつの線が交じるところにFroffyの文字は立っています。

ロゴのまわりに、五つの背景

ロゴができたとき、岩野はその背景を描き込んだ案を5つ同時に出しました。透明なボトルに一色のシルクスクリーンで刷る前提のものと、ラベルシールを貼る前提で色を使ったもの。完成の姿を想像しやすいように方向を変えた5つです。

一種類の小さな花。大きめの花。草原に雲の浮かぶ風景。部分的に色を散らした花。青系の色でまとめた花。小さな花だと可愛らしく、大きな花だとエレガントに見えること。一色で刷るならインクは銀か金が合うこと。案ごとに岩野はそう添えています。

ロゴの背景案のひとつ。ペンで描いた草原と雲の風景。草の中に小さく have a good day

風景の案の手前の草むらをよく見ると、文字が紛れています。「have a good day」。のちにラベルの最後の一行になる言葉は、この草原に最初に書かれました。

ロゴの背景案のひとつ。ペンで描いた小さな花 ロゴの背景案のひとつ。青系の色で塗り分けた花

ボトルの仕様は、BeBlockさんが印刷会社と相談を重ねるなかでシルクスクリーンではなくラベル印刷に決まりました。色が使える。ここからラベルの文字づくりが始まります。

ロゼッタストーンと、読まれない文字

ラベルの文字の組み方は、岩野がロンドンの大英博物館で見たロゼッタストーンから着想を得ています。行間と字間を詰めて組んだ活字の文章と、同じ文章を手で書いたものを上下に重ねる。読もうとするとスペースがなくて読みづらい。それでいいと岩野は言います。

「そもそもこの文字は視覚的なデザインの役割を果たしているので、人は読んでいない。その心理を使っています。ミニマムな中に私なりの引っかかりを付けました。あえて工作的な原始的手法をとって作成しました」

ラベルの原稿。活字で組んだ文章と、手書きで書いた同じ文章を、紙に切り貼りして組んだもの

原稿は、印刷した活字と手書きの紙を鋏で切って貼り合わせたものです。画面の中で並べ替えるのではなく紙の上で。文章を考えたのもペンで書いたのも岩野です。書いてあるのはこういう言葉です。

「影のように感じる今日だって、しっかりと光を含んだ美しい形をうみだしている。影から浮かび上がるFroffyという文字のように、気持ちが浮き上がるようなヘアケア体験をしてもらいたいという想いを込めました。風のように軽やかで、雲のように柔らかな香りが、あなたを静かに優しく包み込みます。洗い上がったあとに、髪も気持ちもフワッと軽く浮かび上がる。そんな感覚で今日という日を過ごせますように」

文章の下に小さく「have a good day」。草原の案から持ち越した一行です。ラベルの文字はボトルを手に取るたびに読めるほどの大きさではありません。読もうと思って近づいた人だけが読める言葉です。

Froffyのチームはブランドの人格を「こうすべきと助言しない」と決めています。ラベルの最後の一行も使い方の指示ではなく、「よい一日を」という願いです。

点描の虹

ラベルの背景に虹をというBeBlockさんからの要望に、岩野は時間をかけました。虹はいろいろな意味を背負って使われているモチーフです。その印象に引っ張られないこと。幼稚にならないこと。Froffyの思想から離れないこと。この3つを決めてから点描の技法で描きました。

「虹を色の光の粒子の集合体で描いて、粒子をひと、ひとりひとりに見立てました。個々のアイデンティティがそのままに在りながら集合する姿の美しさと、ひとがあるがままで存在できる世界への希望を表現しています」

点描で描いた虹の上に、活字と手書きの文章を重ねたラベルの案

ボトルに貼られた白いラベルの色のにじみに見えるもの。あれはひとりひとりの粒です。

紙に絵の具で、空が現れた

円筒の外箱を包んでいるのは紙に絵の具で描いた原画です。

「ポジティブなエネルギーを内包したものを、絵で表現したかった。直感的に色をつくり、直感的に紙に置いていったら、そこに空が現れた。朝焼けのようでもあり、夕焼けのようでもある。そんな絵が描けたなと感じました」

描こうとして描いた空ではありません。色を置いていったら空になった。淡いピンクと橙と紫が重なる絵の上に金の箔でFroffyの文字を押しています。箱を開けると、内側の筒にもラベルと同じ手書きの文字と虹が続いています。

Froffy の円筒の外箱。淡いピンクと橙と紫の絵の上に、金の箔でFroffyの文字

あしたの余白

ロゴを受け取ったBeBlockの千崎さんはこう返しました。「デジタルと手描きを往復させて生まれたニュートラルな線は、量産品でありながら人の温度を感じてほしいというFroffyの想いにも重なり、チーム一同感激しております」。量産されるものに人の温度を。それはezuが衣服でやってきたことと同じでした。

ezuはデザインのほかにもFroffyのチームの打ち合わせに加わり、誰にどんな言葉で届けるかを一緒に考えてきました。打ち合わせのなかで岩野が繰り返し口にしたのは、言葉を並べすぎないということです。「こちらから全部の言葉を並べてしまうと、その人は考えない。説明されたで終わってしまう。その人の気持ちの中に余白ができて、そこで自分の価値観で考える。そういう余白をつくりたい」。読まれないことを前提に組んだラベルの文字と同じ考えです。

ezuは珈琲豆のラベル、服に縫いつける織りネーム、作品に添える一枚の紙と、自分たちのプロダクトのデザインを重ねてきました。シャンプーははじめてです。それでもやっていることは変わりません。依頼主の中に既にある考えを対話のなかから見つけて、一枚の絵図に翻訳する。Froffyの場合、それは「あしたの余白」でした。

「このデザインのように、日常のなかにも、自然にゆっくりと、ひと息。少し視点を変えたリラックスタイムを、つくってもらえたらと思います」

Froffy オールインワンシャンプーのボトル。茶色のポンプボトルに、色のにじみと手書きの文字が並ぶ白いラベル

Froffyは、ezu.gardenでもお求めいただけます。

記事執筆:ezu編集部
監修:岩野久美子(ezu designer)

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