みえるひとも、みえないひとも touch your view の布のこと

みえるひとも、みえないひとも touch your view の布のこと

「目がみえないのですが、おしゃれしたいんです!」

2026年の春。ある交流会で、デザイナーの岩野はそう話しかけられました。声の主は、目がみえない方たちをサポートする企業の代表。岩野が服をつくっていると知って、声をかけてくれたのでした。

「なにもみえなくても、綺麗にしていたい。素敵な服を着たいんです」

たまたまその日、岩野はジャガード織のジャケットを着ていました。織りで模様を立ち上げる、ボコボコとした手触りの服。この刺繍織の技術を使ったら、目がみえなくても絵を感じられる服を作れるかもしれない。すぐにそう思いつき、その場でアイデアを共有しました。

桐生のアトリエに帰るとすぐに絵を描き、翌日には織物工場へ相談に行きました。「その表現は、おもしろいね!」。工場のみんなも、すぐに試作に入ってくれました。

目をつぶって、つくる

いつだって、みえる前提でデザインをしてきた岩野にとって、初めての制作でした。みえないことを想いながら、目をつぶり、手触りを頼りに布を考えていく。

「わたしは花をみたことがあるから、指先で織り柄のモチーフに触れたときに、それが花だと感じられるけど、花をみたことないひとがこのモチーフの輪郭を辿ったとき、どんな絵が浮かぶのかを、できる限り想像してみた」

最初の試作が織り上がったときのことは、こう振り返ります。

「手触りで絵図を感じとれるように、糸選びと織り方を試行錯誤したので、試作が織り上がって、目をつぶって指で織物をなぞって確認しました。輪郭がもう少しハッキリした方がいいと感じたので、カットする糸の長さを5ミリほど長めに残すことで、より手触りが明確になると思い、次の試作にはいりました」

目をつぶり、指でなぞり、5ミリを直す。みえないことを想う制作は、その小さな往復の積み重ねでした。

雲の布と、花の布

こうして生まれたのが、テキスタイル「touch your view」です。

雲の布「touch your view cloud」は、カットジャガードの技法を用いて、カットする糸をあえて長めに残しました。糸と糸との間に空気を含む構造が、雲の柔らかな表情になります。空をみたことがないひとに、空を感じてもらいたい。そんな願いの布です。素材はコットン100%。

touch your view cloud のボートネックプルオーバー

花の布「touch your view flower」は、カットした糸先の束感を多めに残し、刺繍の凹凸で花の輪郭をなぞりました。想像の花が、目の奥に美しく咲くように。花びらの部分には、織る前に染めた先染めのポリエステルの糸を織り込んでいます。「ポリエステルのもこもこした感触を表現するために使った」と岩野は話します。コットン81%、ポリエステル19%。素材の持ち場を、手触りから選んだ布です。

touch your view flower のボートネックプルオーバー ホワイト

みえるひとも、みえないひとも

制作を通して、岩野が感じたことがあります。

「デザインにおいては、たとえみえているひと同士でも、ひとり、ひとりがそれぞれの感受性や価値観でそれを捉える。そもそも、同じようにはみえない。みえるひと、みえないひと、と分け隔てること自体が無意味なのかもしれない、と感じた」

みえるひとも、みえないひとも。図案から、それぞれの、ひとりひとりの物語が浮かんでくるように。この布は、そこを目指してつくられています。

きっかけをくれたあのひとには、まだこの布に触れてもらえていません。触れてもらう日は、これからです。指先が布の上をなぞるとき、どんな空が、どんな花が浮かぶのか。その日を、静かに楽しみにしています。

touch your view の布は、ボートネックプルオーバーになりました。cloud がひとつ、flower はホワイトとグリーンのふたつ。作品は、こちらからご覧いただけます。

布が織り上がっていく様子は、動画でご覧いただけます。

記事執筆:ezu編集部
監修:岩野久美子(ezu designer)

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