先日、群馬県桐生市のezuにて、経営者団体「SBG」の皆さまをお迎えし、勉強会を開催しました。
当日は、まずアトリエで作品をご覧いただきながら、ezuのものづくりの背景や、私たちが日々大切にしている考え方についてお話ししました。
その後、近隣の施設へ場所を移し、質疑応答や意見交換の時間を持ちながら、情緒的価値についてさらに対話を深めていきました。

今回のテーマは「情緒的価値」
今回のテーマは、ezuがひとつの軸として見つめている「情緒的価値」についてです。
いま、世の中には、均一で、早くて、機能的なものが数多くあります。
それ自体は、とても豊かで便利なことでもあります。
けれどその一方で、人はなぜ、背景のあるもの、物語をまとったもの、長い時間を内包したものに心を動かされるのか。
その問いは、ものづくりに限らず、これからの事業やブランドを考える上でも、ますます大切になっていくように思います。

ezuが考える、情緒的価値とは
ezuでは、情緒的価値を「時間を濃縮したもの」と捉えています。
1300年の歴史を持つ桐生という土地。
長い年月をかけて受け継がれてきた織りや縫製の技術。
ゆっくりと発酵させた色。
何万年も前の地層から得た石を削り、スタンプとして作品に用いる試み。
そうしたものには、ただ機能や見た目だけでは語りきれない、時間の層のようなものが宿っています。
けれど、情緒的価値は、何か特別なものを新しく付け足すことで生まれるとは限りません。
むしろ、すでにそこにあるものに、あらためて光を当てること。
そのことの方が本質に近いのではないかと、私たちは感じています。
すでにそこにあるものへ、光を当てる
たとえば、桐生で何十年にもわたって手を動かしてきた縫い手さん。
その方が教わり、またその前にも教えてくれた誰かがいるという、技術の連なり。
あるいは、長い時間を経てもなお動き続ける編み機や道具。
そうしたものの中には、すでに豊かな情緒的価値が息づいています。
ezuは、それらを新しく“つくる”というより、見つめ、受け取り、きちんと伝えていくことを大切にしています。
不便さが生み出す、もうひとつの価値
勉強会では、こうした考え方とあわせて、ezuの具体的な実践についてもお話ししました。
たとえば、店舗は毎月1日から7日までしか開いていません。
本来なら、もっと長く開ける方が便利かもしれません。
けれど、限られた期間にひらくからこそ、人が集まり、同じ時間を共有し、その場に独特の濃度が生まれていきます。
偶然の会話が生まれ、再会があり、同じ感覚を持つ人同士が自然につながっていく。
その時間そのものが、ezuにとっては大切な価値のひとつです。

また、ezuは駅前ではなく、少し不便にも思える山の上にあります。
けれど、その道のりもまた、ただの移動では終わりません。
景色を見ながら向かう時間や、たどり着いた時の感覚も含めて、ひとつの体験になっていきます。
効率だけでは測れない余白の中にこそ、心に残るものがある。
私たちは、そんなふうにも考えています。
パレットが作品になるとき
今回ご紹介したものの中に、原画を描いた時のパレットがありました。

それだけを見れば、絵の具やインクの跡が残る、ひとつの道具にすぎません。
けれど、それが「この服の原画を描いた時に使われたもの」だと知った瞬間、見え方は少し変わります。
さらに、その原画がいま一着の服となって目の前にあるとき、パレットは単なる道具ではなく、作品へとつながる時間の断片として立ち上がってきます。
人は、物そのものだけを見ているのではなく、
その奥にある背景や、人の手の痕跡や、重なってきた時間にも触れながら、価値を感じているのかもしれません。
ezuが目指していること
ezuが目指しているのは、均一さや効率の対極にあるものを、単純に称揚することではありません。
日常の中では、整ったものや機能的なものに支えられている場面もたくさんあります。
そのうえでなお、特別な日や、自分を表現したい瞬間には、背景のあるもの、一点一点に異なる表情を持つものを選びたくなる。
その人の感性に静かに寄り添える服でありたいと、私たちは考えています。

ezuの事例を通した情緒的価値の伝え方とは
今回の勉強会では、ezuの作品やアトリエをご覧いただきながら、情緒的価値とは何か、価格や機能以外の部分で選ばれるブランドとは何か、そんなことを一緒に考える時間を作りました。
また、近隣の施設さまともタイアップし、藍染め体験や桐生の歴史に触れていただくこともできます。
この土地に流れてきた時間や、受け継がれてきた文化に実際に触れることで、情緒的価値を単なる概念としてではなく、感覚として受け取っていただけるような機会になるはずです。
価格や機能だけでは語りきれない時代に
価格や機能だけでは語りきれない時代だからこそ、
自分たちの仕事の中に、すでにある背景や時間をどう見つけるか。
そこにどのように光を当て、どのように伝えていくか。
ezuでの企業研修や視察が、日本各地に息づく文化や技術、そしてそこで働く人たちの営みにあらためて光が当たり、その土地ならではの価値が、これからの時代にもっと生かされていく。そんな流れにつながる小さなきっかけになれたら嬉しく思います。

今回のような内容をはじめ、学校・企業・地域団体の皆さまへ向けた講演・セミナーのご依頼も承っています。詳しくはこちらをご覧ください。