ezuの衣服の色は、桐生の染め場で生まれます。絹織物とともに1300年つづくといわれる繊維の町で、藍染めや籠染めなどの伝統的な染色技法を、手仕事を中心に、一着ずつ。手染めでしか出ない色があり、手染めでしか生まれない素材の風合いがあり、それを大切にしているからです。
季節と、染め場
染め仕事は、季節との仕事でもあります。夏の染め場は火の熱で50度ちかくまで上がり、気をつけていても、染め手が熱中症になってしまった夏もあるほどです。冬は底冷えのなか、氷のように冷たい水と熱湯を交互に使うので、温度差が体にこたえ、手足は霜焼けになります。
だから、暑さが来る前の気候のよい季節に、できるだけ染めためておきます。連日、染め場に籠りきり。この時期の仕事量は一年でいちばんで、これはこれで、なかなかに過酷です。
一着ずつ、手のなかで
水分を十分に含んだ衣服は、両手で持ち上げて、やっとの重さになります。絞ってはひらき、絞ってはひらき、繊維の隅々まで染料が行き渡るように、一着ずつ染めていきます。
一回の染色には3、4時間かかります。それを干して乾かし、また染める。何度も染め重ねて、ようやくひとつの色にたどり着きます。
そして、毎月数百着の衣服を、一着もムラなく、綺麗に手で染め上げること。これがこの仕事のいちばん難しいところです。体力と、気力と、途切れない集中のいる仕事です。
独学から、24年
ezuの染色は、独学から始まりました。自分たちの着る服を、自分たちでつくりたい。好きな色を、綺麗な色の服を着て暮らしたい。はじまりは、それだけの理由でした。
試しては失敗し、別の方法を試してはまたうまくいかず、朝が来るまで試作した夜も数えきれません。夢中で研究し、染めて、染めて、気がつけば24年になります。
それでも、染めたての色がずらりと並ぶ光景には、何度でも心が動きます。新しい色がうまれる瞬間は、いつまでも特別です。
三つの染め方
24年の試行錯誤の先で、いまのezuは、主に三つの染め方で衣服を染めています。くつしたひとつとっても15色。デザイナーの岩野は「本当は、千個つくったら千色にしたい」と笑います。その色数を支えているのが、この三つです。
藍染め
藍の染料は、そのままでは水に溶けません。染料が溶けて布に染み込む状態にすることを「建てる」といいます。ezuの藍は、徳島でつくられる「すくも」(藍の葉を発酵させた、染料のもと)を、ふすまとお酒とお砂糖で発酵させて建てる、昔ながらのやり方です。
発酵した染め液に衣服を浸し、引き上げる。その瞬間の布は、青ではなく黄緑色です。空気に触れて酸素と結びつくと、みるみる青へと変わっていきます。浸しては、空気に触れさせる。染め重ねるたびに、青は少しずつ深くなります。
日本には、藍の青を呼び分けることばが「藍四十八色」といわれるほどたくさんあります。甕覗きとよばれる淡い青から、夜のような濃紺まで。何度染め重ねたかが、そのまま色の名前になってきました。ezuの藍染めも、重ねる回数で青の深さを決めていきます。
籠染め
布を寄せて糸で締め、籠に入れて染め上げる、日本に伝わる伝統的な染め方です。この染め方を、桐生の職人の手で。同じ染料、同じ手順で染めても、その日の温度や湿度、素材の状態で、濃淡のゆらぎが生まれます。同じものは、二つとつくれません。ゆらぎを消すのではなく、その日その手の跡として一着のなかに残す。ezuの色がふたつとして同じにならないのは、この染め方によるところが大きいのです。
籠染めという染め方そのものは、籠染めとはの記事にまとめました。手間のかかる技法のため、数に限りがありますが、海外のお客さまからの声に応えて新作をつくったときのことは、籠染めの新作の記事でご紹介しています。
反応染
反応染料をつかう、現代の染め方です。1950年代に生まれた比較的あたらしい染料で、リネンやコットンといった植物繊維の分子と、染料がかたく結びつきます。だから、色が水や洗濯に強い。そして何より、出せる色の幅が広い。澄んだ鮮やかな色から深い色まで、ezuの色数の多さは、この染め方が支えています。
伝統の染めと、現代の染め。どちらが上ということはありません。素材と同じで、それぞれの性質が生かされる持ち場に置く。表現したい色から逆算して、染め方を選んでいます。
手仕事と機械も、おなじです。手にしかできない仕事を中心に、機械の得意なところは機械に助けてもらう。よいところを補い合いながら、一着の色をつくっています。
過去には、草木染めや柿渋染めもやってきました。いまの三つに絞ったのは、染めるのが大変だからではありません。植物から染めた色は、強い洗剤で色が落ちたり、蛍光灯の光でも少しずつ変わったりと、いまの暮らしのなかで色を保つことがむずかしいのです。色のことを気にしながら着るより、なんでもない日に、安心して着てほしい。お使いになる方の扱いやすさと、染色でできる表現の幅。そのつりあいを考えたとき、いちばんフィットしたのが、いまの三つの染め方でした。
世界でひとつだけの色は、この染め場から生まれます。
手染めの一点ものの作品と、染めの土台になっている素材やお手入れのことは、こちらでご覧いただけます。