モンゴルの手仕事を訪ねて
今回のモンゴル滞在では、羊毛やキャメル、ヤクの毛をつかった新しいものづくりを考えて、各地の手仕事の工房を訪ねています。草原に到着したときの様子は、雄大な大地モンゴルへ、冬の素材と手仕事に会いに来ましたの記事でご紹介しています。
そのなかで伺ったのが、フェルトのルームシューズや小物を制作している工房です。
この工房は、チベット仏教のお寺の活動から生まれたNPOによって運営されています。ダライ・ラマ法王とも交流のあるチベット僧侶たちが中心となり、ゲル地区で暮らす子どもたちや女性たちを支えるために続けられている取り組みです。
工房では、シングルマザーや、仕事を得ることが難しい女性たちがフェルト製品を制作し、その収入で家計を支えています。女性専用の保護施設で暮らす方々にも仕事を提供し、自立を支える活動も行われています。
夏休みのあいだは、ゲル地区の子どもたちもアルバイトとしてフェルトづくりに参加するそうです。ふだんは大人が制作を担っていますが、子どもたちにとっては、働くことを学ぶ機会にもなっています。
さらにこの団体では、家庭でじゅうぶんな食事をとることが難しい子どもたちへランチを届け、英語を教えるなど、安心して過ごせる居場所づくりにも力を入れています。
活動そのものは、1995年に子どもたちの居場所づくりから始まり、2025年に30周年を迎えました。フェルト工房は2001年にスタートし、25年以上にわたって、地域の女性たちの仕事を支え続けています。
一枚のフェルトができるまで
工房を案内していただいたあと、「ぜひ皆さんもやってみませんか」と声をかけていただき、私たちもフェルトづくりを体験させていただきました。
ふだん、完成した製品を目にすることはあっても、その工程にふれる機会はほとんどありません。一枚のフェルトがどのように生まれるのか、実際に手を動かしながら学んでいきます。
1. 羊毛を整える
最初に行うのは、羊毛を機械で均一に伸ばし、繊維の向きを整える工程です。ふんわりと絡み合っていた羊毛が、薄く均一なシート状へと変わっていきます。
2. 必要な量を計量する
次に、つくる製品に合わせて羊毛の量を量ります。仕上がりの厚みや大きさを左右するため、職人さんにとって大切な仕事です。
3. 水を含ませながら圧縮する
整えた羊毛に水を含ませ、少しずつ圧力をかけていきます。この段階ではまだやわらかく、繊維どうしはじゅうぶんに絡み合っていません。
4. 石けんをつかって縮絨させる
続いて石けんを加えながら、さらに何度も圧縮していきます。摩擦と圧力によって繊維どうしが少しずつ絡み合い、一枚の丈夫なフェルトへと変化していきます。この「縮絨(しゅくじゅう)」という工程が、フェルトづくりの大きな特徴です。
5. 何度も圧縮を繰り返す
一度で完成するわけではありません。水を加え、押して、転がして、また押す。同じ動きを何度も何度も繰り返しながら、少しずつ密度を高めていきます。単純な作業に見えますが、想像以上に体力と根気が必要でした。
6. 棒をつかってさらに締める
途中からは棒もつかいながら、さらに強く圧縮していきます。手だけでは出せない力を加えることで、より丈夫で均一なフェルトへと仕上がっていきます。
7. 乾燥させて完成へ
最後は形を整え、しっかり乾燥させます。ここまでの工程を経て、ようやく一枚のフェルトが完成します。
一足の靴ができるまで
工房では、フェルトの靴づくりの工程も見せていただきました。
まず驚いたのは、一足の靴につかわれる羊毛の量です。なんと、羊3頭分。ふんわりとかさの大きい羊毛の山が、圧縮されて、手のひらにのる一足になる。目の前の羊毛と靴の大きさの違いに、フェルトという素材の密度が表れています。
靴づくりには、靴の型をつかいます。計量した羊毛を型に合わせてまとわせ、職人さんが何度も圧縮しながら押し付けていく。平らなフェルトと同じ縮絨のしくみで、立体の形を直接つくっていきます。
形ができあがったら、次の工程で靴の底を縫い付けます。ここもひと針ずつの手仕事です。
そうして、一足のフェルトの靴が完成します。羊3頭分の毛が、この一足に。
糸を経ずに、繊維がそのまま布になる。織物の街、桐生から来た私たちには、それがとても新鮮でした。ふだん何気なく手にしているルームシューズや小物には、これだけ多くの手間と時間が積み重ねられていました。
手仕事の背景にあるもの
今回、心に残ったのは、フェルトづくりそのものだけではありません。
この工房では、一つの製品をつくることが、そのまま女性たちの仕事につながり、子どもたちの食事や学びの場を支えることにもつながっています。ものづくりと地域の暮らしが自然につながっている姿は、ezuが大切にしている考え方とも重なるものでした。
この旅で学んだ羊毛、ヤク、キャメル、カシミヤの違いや、それぞれの素材が持つ魅力は、草原の4つの毛のはなしの記事にまとめました。畑と繭から生まれる繊維のことをまとめた3つの天然繊維のはなしとあわせて読んでいただくと、天然素材の世界をより深く楽しんでいただけると思います。