ezuの服を形づくる三つの天然繊維、リネン、コットン、シルクのことは、3つの天然繊維のはなしという記事にまとめました。畑からふたつ、繭からひとつ。どれも、植物と小さな生き物の恵みから生まれる繊維です。
今回のモンゴルの旅では、その続きになる繊維たちに出会いました。羊のウール、山羊のカシミヤ、ヤク、そしてラクダのキャメル。マイナス30度にもなる草原の冬を、動物たちが生き抜くためにまとっている毛です。
現地で素材を扱う方に教わったお話をもとに、四つの毛の違いと、それぞれの持ち味をご紹介します。
ウール 絡み合う毛
羊のウールは、四つのなかでいちばん身近な毛です。繊維の表面には「スケール」と呼ばれる、うろこのようなひだが並んでいます。水分を含んで圧力がかかると、このスケールどうしががっちりと絡み合い、離れなくなる。フェルトが生まれるのは、ウールだけが持つこの性質のおかげです。
刈り取りはバリカンで、一頭分をまとめて。四つのなかでは価格も穏やかで、セーターからフェルト製品まで、暮らしのいちばん近くで働いてくれる毛です。
カシミヤ 櫛で梳き取る産毛
カシミヤは、山羊が冬の寒さから身を守るために、粗い毛の内側に生やす細い産毛です。四つのなかでもっとも細く、やわらかく、軽い。肌に直接ふれるセーターやマフラーに選ばれるのは、このデリケートさゆえです。
ただ、その採り方を聞いて驚きました。バリカンでは、人の髪のように硬い「刺し毛」が混ざってしまうため、春に自然と抜けはじめた産毛だけを、櫛でそっと梳き取っていくのだそうです。それでも混ざってしまう刺し毛は、工場で一本一本、手作業で選別する。一頭から採れる毛のうち、最後にカシミヤとして残るのは半分ほどだといいます。
カシミヤが特別に高価なのは、この途方もない手間の積み重ねゆえです。またデリケートで強くはない繊維なので、コットンやシルク、ウールの糸と合わせて、丈夫さを補いながら編むこともあります。
ヤク 高原の毛
ヤクは、高地に暮らす、毛の長い大きな牛の仲間です。その産毛は、やわらかさこそカシミヤに一歩ゆずるものの、保温性と通気性にすぐれ、そして丈夫。蒸れにくくあたたかいので、セーターや靴下のほか、登山服の裏地にも使われると教わりました。
体の大きな動物なので、羊や山羊のように小屋で育てることはなく、群れのまま草原に放牧されています。採れる量が少ない、貴重な毛です。
キャメル 草原のコート
ラクダのキャメルは、カシミヤやヤクとくらべると太く、張りのある毛です。丈夫であたたかく、コートや厚手の編み物に向いています。いっぽうで、やわらかさを競う毛ではありません。張りと強さで体を守ることが、キャメルの持ち場です。
おもしろいのは、キャメルではフェルトがつくれないこと。ウールと違ってスケールが少なく、表面がなめらかなので、繊維どうしが絡み合わないのだそうです。同じ草原の毛でも、性質はこんなに違います。
馬の毛 服にはならない、けれど
草原には、もうひとつ大切な毛があります。馬のたてがみです。硬くて張りのある毛なので、セーターやマフラーのような、肌にまとう服になることはありません。けれど、切ったあとに捨てられることもありません。
たてがみは、編まれて、丈夫な紐になります。その紐は、ゲルの骨組みを結び、固定するための材料のひとつ。家族の住まいを、馬の毛が支えています。
また、モンゴルの楽器、馬頭琴の弦と弓には、馬の尾の毛が使われてきました。コシと弾力のあるこの毛は、世界でもブラシや弦楽器の弓、服の芯地などに生かされています。
着るものにはならなくても、住まいを結び、音楽を奏でる。切ったあとの毛を捨てずに、その毛にしかできない持ち場を見つける。ezuが大切にしている、捨てないものづくりと響き合うお話でした。
一枚の表にすると
ここでも、どれが優れているかを決めるための表ではありません。四つの毛の違いを見くらべながら、それぞれの得意な持ち場を知っていただくための表です。
値段の違いは、手間の違い
価格は、カシミヤがいちばん高く、ヤク、キャメル、ウールと続きます。糸にした状態で、ウールはカシミヤの半分ほどだそうです。
けれどその差は、繊維の優劣ではありません。櫛で梳き取り、手で選別し、半分しか残らない毛を集めていく。値段の違いは、そこに積み重なった手と時間の違いです。どの毛にも、それぞれの持ち場があります。
草原のこれからと、素材を選ぶこと
ひとつ、考えさせられるお話も聞きました。モンゴルは世界第2位のカシミヤの産地です。カシミヤは高く売れるため、遊牧民の山羊は増え続けてきました。けれど山羊は草を根まで食べてしまうので、増えすぎると草原が回復できなくなり、砂漠化が進む一因になっているのだそうです。
あたたかい毛をまとうことと、その毛を育てる草原が痩せていくこと。遠く離れた日本で素材を選ぶことが、草原の未来と地続きにあります。私たちも、答えをすぐには出せません。ただ、素材の向こうにある土地と暮らしを知ったうえで、ひとつひとつ選んでいきたいと思っています。
草原の毛と、これから
この旅で出会った工房のこと、羊毛が一枚の布になるまでのことは、一枚のフェルトができるまで。モンゴルの手仕事を訪ねましたの記事に書きました。旅のはじまりの様子は、雄大な大地モンゴルへ、冬の素材と手仕事に会いに来ましたの記事に。
畑と繭から生まれる繊維と、草原の動物たちから分けてもらう毛。生まれる場所は違っても、自然の繊維で、肌にふれるものをつくりたいという考えは変わりません。ezuの冬のものづくりが形になったら、またご報告します。