ヤクの毛をつかった手仕事に出会いに、モンゴルまで来てみたのですが、念願叶って、とうとう、ヤクに会えました。
ヤクの群れは、遊牧民たちと移動しながら生活しています。この広大な草原のなかで、もし出会えたらラッキー、くらいの期待値でやって来たので、こうして群れに出会えたこと、それだけでもう、うれしくて。
ヤクという動物
ヤクは、標高の高い土地に暮らす、毛の長い大きな牛の仲間です。モンゴルの冬は、マイナス40度にもなります。あたたかい季節は7月と8月の、たった2ヶ月。その厳しさを生き抜くために、ヤクは長い外側の毛の内側に、細かくやわらかい産毛をびっしりと蓄えています。
人とヤクのつき合いは古く、チベット高原で家畜になってから、数千年がたちます。ミルクはバターやチーズやヨーグルトに。乾かした糞は、木の少ない高地の、大切な燃料に。力の強い身体は、荷を運ぶ相棒に。滞在中にいただいた乳製品のなかにも、ヤクのミルクからつくられたものがありました。下の写真のスプーンが置いてあるものが、ヤクのミルクから作ったクリームで、とても濃厚でした。
本当に高地の暮らしをまるごと支えてきた、なくてはならない存在なのだと思います。
毛にも、役割の分担があります。長くて丈夫な外側の毛は、ロープや敷物、テントを織る布に。衣服になるのは、その内側の細かい産毛のほうです。ezuが糸にするのも、この産毛です。
一年に一度の、毛の衣替え
季節の移ろいとともに、動物たちの毛は生え変わります。夏に向かう換毛期になると、冬をしのいだ産毛が身体から浮き上がってくる。その時期に合わせて毛を刈り、採れたぶんだけを分けていただき、糸にして、セーターやくつしたを編みます。
人間の衣替えのようなものですね。
山羊のカシミヤは櫛で梳き取りますが、身体の大きなヤクは、バリカンで刈り取ります。どちらも、換毛の時期に合わせた、一年に一度きりの収穫です。
カシミヤと並ぶ細さ、それを超える丈夫さ
ヤクの産毛は、カシミヤとほぼ同じ細さです。繊維の表面がなめらかなので、肌にのせたときのやわらかさもカシミヤに迫ります。それでいて、カシミヤよりも摺擦に強く、毛玉になりにくい。保温性はウールを上回り、通気性にもすぐれているので、あたたかいのに蒸れにくい。日常で長くつき合う冬の素材として、とても頼もしい性質を持っています。
ふだんの使い勝手も、よく考えられた毛だと感じます。湿気を吸っては外へ逃がすので、身につけていて、さらりとしている。においがつきにくい性質もあって、頻繁に洗う必要がありません。冬のあいだ毎日つき合うものにとって、これはとても大事なことです。
モンゴルのメンバーは、ヤク100%の靴下なら何日履きつづけても蒸れない、と言い切ります。ほかの糸が混ざると、このさらりとした持ち味は鈍ってしまう。だから靴下こそ、混じりけのないヤクがいいのだそうです。
そしてヤクの毛には、染めなくても、深い色があります。ブラウン、グレー、黒。下の写真の3種類が原色です。草原でまとっていた色が、そのまま糸の色になる。手を加えないままで、もう美しい素材です。
ただし、バリカンで刈ると、硬い外側の刺し毛がどうしても混ざります。選別を重ねて、最後まで残るのは、刈った毛の2割ほど。櫛で梳き取るカシミヤでも半分は残るので、ヤクがどれほど貴重かがわかります。一頭から採れる産毛は、ごみを取り除いて洗うと、わずか100グラムほど。セーター一着ぶんの毛を集めるにも、何頭ものヤクと、一年という時間が必要です。
それでも、はじかれた刺し毛は捨てられません。圧縮されて、建物の断熱材に。糸づくりで出るロスは、畑の肥料に。一頭の毛が、余すところなく使われていきます。
そしていま、ヨーロッパではヤクが静かに注目されています。山羊は草を根まで食べてしまい、増えすぎると草原が痩せていく。けれどヤクは高地に暮らし、草原を傷めません。環境への意識が高まるなかで、カシミヤに代わる選択肢として、ヤクを選ぶ人が増えているのです。ウール、カシミヤ、キャメルとの違いは、草原の4つの毛のはなしにまとめています。
草原で、群れに会う
自然のなかで、自生した薬草を食べながら、ゆったりと自由に暮らすヤクの群れ。その姿を間近でみることができて、感動しました。
この日の群れの様子は、動画でもご覧いただけます。
ヤクの毛の手仕事、はじめています
いま、モンゴルの工房や職人の皆さんと、この土地の暮らしからしか生まれない毛の、ものづくりが始まっています。この土地で毛を分けてもらい、この土地の手で形にして、日本の冬へとどける。かたちになるのは、くつした、セーター、マフラー、帽子です。
この子たちから分けていただく素材をつかって、この子たちが生きる世界を感じてもらえるような、冬の手仕事を。ezuで形にできたらと想っています。
モンゴルの旅と、素材のことは、こちらの記事にまとめています。
記事執筆:ezu編集部
監修:岩野久美子(ezu designer)