わたしがはじめてヘンプに出会ったのは、中学生のころです。
当時のわたしは古着にハマっていて、電車を乗り継いで、あちこちの古着屋さんやフリーマーケットをまわるのが趣味でした。そのなかで、デザインが気に入って手にした、一枚のTシャツ。頻繁に着るうちに、この素材、なんだかいいなと思って品質タグを確認すると、hemp100%と書いてありました。
名前より先に、着心地のほうが好きになっていた。それが、わたしとヘンプの出会いです。
のちに、自分の服をブランドとして発表するようになったとき、迷わずヘンプの生地で服を制作して並べました。素材としてだけでなく、この草が歩んできた文化も思想も、まるごと好きだったからです。
一万年、そばにある繊維
ヘンプは、日本語でいうと、大麻。じつは、日本人がいちばん長くまとってきた繊維です。
日本で麻がつかわれていた、いちばん古いあかしは、縄文時代のはじめごろの遺跡から出土した、大麻の縄です。いまから、およそ一万年前。稲づくりが始まるよりも、ずっと前から、この草は日本の暮らしのそばにありました。
神社の注連縄や鈴縄、御幣。麻は神さまの領域を示す繊維として、神事のなかに生きつづけています。日本人にとって麻は、ただの布の材料ではなく、どこか神聖なものでした。
ひとくちに「麻」といっても、じつはひとつの植物ではありません。リネンは亜麻、ラミーは苧麻(ちょま)。そしてヘンプが、日本で古くから「あさ」と呼ばれてきた大麻です。同じ「麻」の名を持つリネンとは、遠い親戚のような間柄です。
すくすく育つ、畑にやさしい草
ヘンプは、とても育ちのよい草です。種をまいてから100日ほどで、人の背丈をゆうにこえるまで伸びる。農薬や肥料をほとんど必要とせず、水も少なくてすみます。土地に負担をかけずに、毎年きちんと育ってくれる。畑の側から見ても、気持ちのよい繊維です。
着物や建具でおなじみの麻の葉文様は、この草の葉をかたどったものです。すくすくとまっすぐ育つ麻にあやかって、赤ちゃんの産着には麻の葉文様が選ばれてきました。この子が、麻のように、すこやかに育ちますように。文様ひとつに、そんな願いが編みこまれています。
硬さから、とろみへ
繊維としてのヘンプは、天然繊維のなかでも指折りの丈夫さです。ヘンプの糸は、コットンの数倍の強さを持つといわれます。擦れに強く、型崩れしにくい。長くつき合う服の骨格として、とても頼もしい繊維です。
だから、正直にいうと、おろしたてのヘンプは硬い。でも、それがこの素材の持ち味です。着るたびに、自分の身体に合わせて、すこしずつやわらかく育っていく。この感覚が、とても心地良いのです。
わたしのシャツは、7、8年着込んできたあたりで、生地にとろみが出てきました。その肌馴染みは、もう手放せません。
着心地は、涼しい。湿気をすばやく吸って、すばやく乾かすので、汗ばむ季節もさらりとしています。雑菌が増えにくく、においがつきにくい性質もあります。
コットンと、半分ずつ
ezuのヘンプの生地は、ヘンプ50%、コットン50%で織られています。
ヘンプが、服の骨格をつくる。ハリと丈夫さ、そして風の通り道を。コットンが、肌にふれる面をつくる。ふんわりとした、やさしい肌ざわりを。半分ずつ混ぜることで、たがいの得意なところが、一枚の生地のなかで働いてくれます。
ときどき、より、たびたび
ヘンプには、ときどき着る服よりも、たびたび着る服のほうが似合うと思っています。
着るほどに育っていく素材だから、クローゼットの奥で出番を待つより、コーディネートの真ん中で働いてもらいたい。ezuのヘンプが、登場回数の多いシャツとパンツを中心にしているのは、そのためです。
そしてコートは、ヘンプがオールシーズンに対応する素材だから。季節の境目が曖昧になってきた、いまの気候のなかで、頼もしい一着になると思って、デザインしました。
ヘンプを使った作品はこれから、このサイトでも順番にご紹介していきます。アトリエショップにはいくつもあるので、ぜひ実物をみて、実際の触り心地と着心地を感じにいらしてください。
ヘンプもくわわった、畑と繭から生まれる繊維のことはリネン、コットン、ヘンプ、シルク 4つの天然繊維のはなしに、草原の動物たちの毛のことは草原の4つの毛のはなしにまとめています。一万年まえから続く繊維の世界を、あわせて楽しんでいただけたらうれしいです。