ezuのストールには、ヘリンボーン織のものと、バスケット織のものがあります。おなじヤクの毛から織っても、このふたつは、布の表情がまるでちがいます。かたや、斜めの畝が光をひろう、きりっとした布。かたや、ふっくらと空気を含んだ、やわらかな布。
なぜ、こんなにちがうのか。この記事では、ふたつの織りの生まれを確かめたうえで、ezuがどのように使い分けているのかを書きとめておきます。
布の織りには、3つの祖先がある
織物の組織は、突きつめていくと、3つの基本形にたどり着きます。平織、綾織、朱子織。三原組織と呼ばれ、世界中のあらゆる織りは、この3つの応用や変化形だといわれています。
平織は、経糸と緯糸が1本ずつ、交互に組み合わさる、いちばん単純でいちばん丈夫な織り。綾織は、交差を少しずつずらしながら織ることで、布の表面に斜めの畝があらわれる織り。デニムやスーツの生地が、この仲間です。朱子織は、交差をできるだけ減らして糸を長く浮かせた、なめらかな光沢の織り。
今日の主役のふたつは、このうち、別々の親から生まれています。ヘリンボーンは、綾織の子。バスケットは、平織の子です。
ヘリンボーン織は、綾織の子
綾織の斜めの畝には、向きがあります。右上がりに走らせれば右綾、左上がりなら左綾。ヘリンボーン織は、この右綾と左綾を、一定の間隔で折り返しながら織っていきます。すると布の上に、連続したV字の山形が浮かび上がります。
名前は、開いたニシン(herring)の骨(bone)に、模様が似ていることから。日本では、杉の葉のかたちにたとえて、杉綾(すぎあや)と呼ばれてきました。ひとつの織りに、海の魚と山の木、ふたつの名前がついています。
とても古い織りです。アルプス地方では、紀元前800年ごろの毛織のレギンスが見つかっています。ジャケットやコート、ツイードなど、きちんとした表情の厚手の布として、いまも世界中で生きています。
斜めの畝は、光をひろいます。無地なのに、体の動きにあわせて陰影がゆれる。ezuでは、ヤクのストール(35×200)とウールの帽子がこの織りです。ウールカシミヤのストールは、その名も波打つ、ウェーブヘリンボーン織です。
ヤクのストールの織り目。V字の山形が、布の上をわたっていく。
バスケット織は、平織の子
ふつうの平織は、経糸と緯糸が1本ずつ交互に組み合わさります。バスケット織は、この糸を2本以上ずつ引き揃えて、束のまま、平織とおなじ要領で組んでいきます。
太くなった糸の束が、たがいちがいに交差する織り目は、籠のあみ目にそっくりです。名前は、そこから。日本では、ななこ織(斜子織)とも呼ばれてきました。
束ねた糸と糸のあいだには、わずかな空気の隙間が生まれます。だからバスケット織の布は、ふっくらとして、あたたかく、肌あたりがやわらかい。シャツでおなじみのオックスフォード生地も、じつはこの織りの仲間です。
ezuでは、ヤクのストール(75×200)とその細幅(30×160)がこの織りです。
ヤクのストールの織り目。束ねた糸が、籠のあみ目のように組み合う。
おなじ糸で、織りだけを変えると
ezuには、このふたつの織りを、おなじ糸でくらべられる作品があります。ベビーキャメルのストール(30×160)。おなじベビーキャメルの糸、おなじ寸法で、ヘリンボーン織とバスケット織の2種類を織りました。
おなじベビーキャメルの糸の、ヘリンボーン織。
こちらは、バスケット織。
ふたつの布を前に、デザイナーの岩野はこう話しています。
「ヘリンボーン織は、織り上がりがサラッと滑らかで、上品な印象。バスケット織は、フワッと柔らかくて、素朴な雰囲気とあたたかみのある、優しい印象です」
おなじ糸でも、糸の組み方ひとつで、サラッとフワッのあいだが生まれる。布の性格の半分は、織りがつくっています。
どちらも、伝統の織り
では、どちらがよい織りなのでしょうか。岩野の答えは、選ばないことでした。
「どちらも伝統的な織物で、織柄の表情が好きなんです」
サラッとした上品さと、フワッとしたあたたかみ。どちらが上ということはなく、べつの顔がふたつある、というだけです。V字の山形と、小さな市松。ふたつの伝統の織柄から、その日のあなたに寄り添うほうを選んでいただけたら嬉しいです。
ヘリンボーンの作品、バスケットの作品
手もとにezuのストールがある方は、よろしければ織り目を近くで見てみてください。V字の山形が走っていればヘリンボーン、小さな市松がならんでいればバスケットです。
そもそも「織り」とはなにか、「編み」と何がちがうのかは、「編み」と「織り」の違いの記事に書きました。ストールの糸のことは、草原の4つの毛のはなしに。
記事執筆:ezu編集部
監修:岩野久美子(ezu designer)