服の生地は、大きく分けると二つのつくり方でできています。編みと、織り。編み物は、一本の糸がつくる輪のつらなりでできる布です。織物は、経糸と緯糸、二つの糸が交わってできる布です。糸が同じでも、このつくり方の違いだけで、布の性格は大きく変わります。
ezuの作品にも、編みでつくったものと、織りでつくったものの両方があります。この記事では、二つのつくり方の違いを確かめたうえで、ezuがなぜ、どのように使い分けているのかを書きとめておきます。
編みは、一本の糸の輪のつらなり
編み物は、一本の糸で輪をつくり、その輪に次の輪をくぐらせて、面を広げていきます。おばあちゃんが編んでくれたマフラーも、機械で編んだTシャツの生地も、原理は同じです。
編み物が伸び縮みするのは、糸が伸びるからではありません。輪が形を変えるからです。引っぱれば輪がつぶれて伸び、手を放せば輪が戻る。この構造のおかげで、編み物は体の動きにやわらかくついてきます。
編み物の構造。赤い糸が、ひとつの輪。輪が下の輪に引っかかりながら面になり、輪が形を変えることで布が伸び縮みする。
編み地のアップ。並んだV字のひとつひとつが、糸の輪。
Tシャツやスウェットが「編み物」だと聞くと、意外に感じるかもしれません。あの生地は、機械で編んだニット地を裁断して、縫い合わせたもの。英語の cut(裁つ)と sewn(縫う)から、カットソーと呼ばれます。セーターや靴下のように編みながら形をつくるものも、Tシャツのように編み地を裁断して縫うものも、生地の原理は同じ、一本の糸の輪のつらなりです。
ニット地の古い呼び名に「メリヤス」があります。語源はポルトガル語やスペイン語で靴下を意味する言葉だと言われていて、日本には17世紀後半、靴下などの形で伝わったとされています。編み物と靴下は、言葉の生まれからして深い縁があります。ezuの靴下も、ヴィンテージの編み機が一足ずつ編んでいます。その様子は、靴下ができるまでの記事と、この短い動画でご覧いただけます。
織りは、二つの糸の交わり
織物は、まっすぐに張った経糸のあいだに、緯糸を一段ずつくぐらせてつくります。糸と糸が直角に交わり、互いを押さえ合うので、布はしっかりと安定します。糸そのものに伸縮の加工がなければ、織物はほとんど伸び縮みしません。だから型崩れしにくく、きちんと整った表情になります。
織物の構造。まっすぐ張った経糸(たていと)のあいだを、緯糸(よこいと・赤い糸)が上下交互にくぐって進む。
織り地のアップ。細かな格子は、二つの糸の交わりの跡。
アパレルの仕事場では、織物のことを「布帛(ふはく)」とも呼びます。布帛と聞いたら、織物のこと。シャツやワンピース、ジャケットやスーツの生地は、ほとんどがこの布帛です。
経糸のあいだを緯糸が行き交って、布になっていく。その様子は、桐生の織物の工房で撮ったこの短い動画でご覧いただけます。紋紙とよばれる穴のあいたカードで模様を操る、ジャカード織機です。
言葉のなかに残る、織物
織物の経糸の「経」は、経度の経、お経の経と同じ字です。縦横の「縦」ではなく、この字を書いて「たていと」と読みます。緯糸の「緯」は、緯度の緯。そして、物事のいきさつを「経緯(けいい)」と言うのは、この経糸と緯糸から来ています。
まっすぐに通した経糸に、緯糸が一段ずつ行き交って、布という面ができていく。地球に経度と緯度の線を引いた人も、出来事の筋道を経緯と呼んだ人も、頭の中に織物を思い浮かべていたのだと思うと、織りという技術が、どれほど昔から人の暮らしの真ん中にあったかが伝わってきます。
別々の機械、別々の手
織物は織り機で、編み物は編み機でつくります。機械がまったく別なので、つくる人も別です。織物屋さんと編み物屋さんは、それぞれの機械と長年向き合ってきた、別々の専門職。日本の産業のうえでも、織物業とニット生地製造業は別の業種として分類されています。
なかには、リブだけを編む「リブ屋さん」という専門職もあります。リブというのは、Tシャツの首まわりなどに使われる、伸縮の強い編み地のこと。ひとつの生地の、そのまた一部分だけを受け持つ手が、日本のものづくりを支えています。
ezuの拠点、群馬県桐生市は、絹織物とともに1300年つづくといわれる繊維の町です。織る手、編む手、染める手、縫う手。それぞれの専門の手が町のなかにあって、ezuの作品はその手から手へ渡って生まれています。
出来立てのオリジナル生地に、手で触れて確かめる。
シルエットが、素材を決める
それでは、ezuはどう使い分けているのか。デザイナーの岩野は、こう話しています。
「思い浮かんだデザインを形にしようと思ったとき、その浮かんでいるシルエットになるのに適した素材を選んでいます。素材というのは、リネン、コットン、ヘンプ、シルク、ウール、カシミヤといった原材料だけではなくて、それを織物にするのか、編み物にするのかという、成形の仕方も素材として選んでいます」
先に決まるのは、編みか織りか、ではありません。つくりたいシルエットです。体にやわらかく沿ってほしいTシャツやセーター、カーディガン、靴下は、自然と編みになる。すとんと落ちる線を描いてほしいシャツやブラウス、ワンピースやスカートは、自然と織りになる。ezuのオンラインストアに並ぶ作品は、いまはこの分かれ方をしています。
リネンもコットンもシルクも、糸は織ることも編むこともできます。同じ糸なら、織っても編んでも、かかる値段に大きな差はありません。だから、どちらを選ぶかを決めるのは価格ではなく、その服で、どんな時間を過ごしてほしいか、です。
一着のなかで、二つが手を組むこともあります。ezuのひえとり靴下は二重構造になっていて、肌に触れる内側の層は、シルク100%の編み。やわらかく足に沿ってほしい内側にだけ、編みの性質を使っています。また、織物でTシャツをつくったこともあります。布帛は伸びないので、そのままでは頭が通りません。そこで首まわりにだけ、よく伸びるリブの編み地を合わせる。編みと織りは、対立するものではなく、互いの得意を持ち寄る間柄です。
桐生の工房にて。織り機に張られた経糸と、職人の手。
きちんとみえる織り、くつろいでみえる編み
スーツやシャツは織物で、部屋着や運動着には編み物が多い。長い衣服の文化のなかで、織りには「きちんとした」、編みには「くつろいだ」という印象がつくられてきました。式典やドレスコードのある場所で織物の服が選ばれてきたのも、その積み重ねです。
この10年ほどは、ラグジュアリーブランドがニットやスウェットをフォーマルの場まで押し上げて、印象の境目は少しずつほどけてきていますが、布そのものの性質と、布が人に与える印象は、いまも服選びの根っこにあります。
ひとつ、正直に書いておきたいことがあります。編み物は、どんなに丈夫に編んでも、着ているうちに少しずつ伸びていきます。輪でできている布の、それは宿命です。ただ、体に馴染んでいくその変化も、編み物と過ごす時間のうちだと私たちは考えています。変化との付き合い方は、お洗濯とお手入れの記事に書きました。
編みでつくった作品、織りでつくった作品
手元にezuの服がある方は、よろしければ生地を近くで見てみてください。V字の輪が縦に並んでいれば編み、細かな格子がみえれば織りです。岩野は「見ればわかる」と言いますが、一度違いを知ると、確かに世界中の服の見え方が少し変わります。
糸そのもののことは、4つの天然繊維のはなしと草原の4つの毛のはなしに。服のなかに織り込まれた、いちばん小さな織物のことは、織りネームのはなしに書いています。
記事執筆:ezu編集部
監修:岩野久美子(ezu designer)