シンプルは、むずかしい。ネパールのアクセサリー工房との物語が始まります

シンプルは、むずかしい。ネパールのアクセサリー工房との物語が始まります

ネパールのカトマンズで、アクセサリーと小物の工房を訪ねました。主宰は、プラビンさん。真鍮やシルバーと石を組み合わせたアクセサリーを、長くヨーロッパへ届けてきたデザイナーです。

このたび、この工房とご一緒に、アクセサリーと、作品に添える真鍮のタグ、そしてカシミヤのカーディガンのものづくりが始まります。今日はそのはじまりに、プラビンさんという人のことを書いておきたいと思います。

炎で真鍮を熱して、かたちをつくっていく工房の職人さん

炎で真鍮を熱する、工房の職人さん。

シンプルは、むずかしい

プラビンさんの代表作は、黒い石と銅を、金属の縁なしで嵌め込んだリングです。一見すると、ただの静かな一本の輪。けれど、縁がないということは、石を留めておく金属がない、ということです。装飾のあるデザインのほうが、実はずっと簡単なのだと、プラビンさんは言います。

Simple is difficult. シンプルは、むずかしい。それがこの人の口ぐせでした。ボタンひとつでも、厚みが0.2mm違えば表情が変わる。飾りを足すのではなく、削ぎ落とした先に残るものの精度で仕事をする人です。日本のものづくりの、細部への丁寧さが好きなのだと、何度も話してくれました。

灯りに照らされた、真鍮のリング

技は、ひとりの手のなかに

その縁なしの嵌め込みは、工房でも、たったひとりのアーティストにしかできない仕事だそうです。

これは私のコンセプトだけれど、形にするのはアーティストなんだ。プラビンさんはそう言って、つくり手の名前と限界を、そのまま認めていました。だからこの工房の作品は、いくらでも増やせるものではありません。ひとりの手が生み出せる数が、そのまま作品の数になります。

糸鋸で、細かな透かし模様を切り出していく工房の職人さん

糸鋸で透かしを切り出す、工房の職人さん。

1000本のブレスレットと、ひとつの学校

こんな話も聞きました。あるとき、山あいの村に学校を建てるためのプロジェクトを頼まれて、プラビンさんは祈りの旗の5色と五大元素をコンセプトにしたブレスレットをデザインしました。1000本がつくられ、売れて、そのお金で学校が建ったそうです。

この人にとって、良いデザインの条件には、美しさや技術だけでなく、それが誰の役に立ったか、が入っている。自分の工房のオフィスも、荒れていた共有地を自分の手で整えて使っている場所でした。仕事と土地の暮らしが地続きになっているところは、桐生の職人さんたちや、モンゴル、そしてネパールの編み手たちと同じです。

それぞれの持ち場で手が動く、工房のアーティストたち

じぶんの小さな仕事を、選んだ人

プラビンさんは若いころ、海外で学びました。中国が世界に開かれていった2000年代には、大きな企業を相手にする破格の仕事に誘われ、日本からは、技師としての職も用意されていたそうです。けれど、どちらも選ばずに、ネパールへ帰ることを決めました。

その豊かさを知ってしまったら、自分はもう戻れなくなる。だから帰って、自分の小さな仕事をやるんだ。そしてこうも言いました。私は日本にとても惹かれていた。だからこそ、行かなかったんだ、と。

趣味を尋ねると、夢を見ること、創ること、という答えが返ってきました。規模やお金よりも、創る自由を上に置く。その順番が、この工房の作品の静けさを、そのままかたちづくっています。

オフィスで、これまでの歩みを話すプラビンさん

工房主の、プラビンさん。

カシミヤのカーディガンと、真鍮のしるし

この工房では、カシミヤのカーディガンづくりも始まります。素材の選定から、かたちのデザインまで、手がけるのは岩野です。

そこに、真鍮のしるしがふたつ重なります。ひとつは、作品に添えるezuのブランドタグ。どこにどう置くかまで、岩野がデザインします。もうひとつは、ezuのためだけにつくる真鍮のボタン。0.2mmの厚みにこだわるプラビンさんの手が、岩野の描いたかたちを金属にします。

ネパールのカシミヤと、真鍮の小さな金物。ひとつの工房のなかで、糸の仕事と金属の仕事が重なって、一着のカーディガンになります。この真鍮のタグとボタンのことは、あらためて真鍮のしるしの記事にくわしく書きました。

真鍮の板から、ezuのタグを一枚ずつ切り出していく
カシミヤのニットに、真鍮のezuタグを縫い付ける

絵を描く木箱

もうひとつ、お願いしたいものがありました。手描きのペイントをほどこした木箱です。工房で蓋つきの小さな木箱を見せてもらったとき、岩野は「これはキャンバスだ」と言って、その場で絵を描く構想を話し始めました。

ネパールの木工の手と、岩野の絵。ふたつが重なるものづくりも、これから始まります。

木箱に、絵を描き入れていく岩野の手
星空を描いた木箱に、真鍮のリングをのせて

ものづくりを、お願いすることにしました

相互でなければ意味がない。一方通行では成り立たない。関係のつくり方について、プラビンさんはそう話していました。急いで大きく始めるのではなく、お互いを理解しながら、ゆっくり面白いものをつくっていく。その考え方に、わたしたちも深く頷きました。

何時間も一緒に過ごし、作品を触り、想いを聞き、わたしたちの日本でのものづくりのこともお伝えして、このものづくりは始まっています。最初の作品は、10月にezuのアトリエショップに並ぶ予定です。そして11月の中旬には、あらためてネパールを訪ね、新しい作品の開発を進めます。できあがったら、ご紹介します。

ネパールとモンゴルでのものづくりのことは、こちらの記事にまとめています。

プラビンさんたちと、工房の前で

真鍮の板から、ezuのタグが切り出されていく様子は、こちらの短い動画でご覧いただけます。

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