モンゴルの市場を歩いていると、「カシミヤ100%」と書かれたタグを、たくさん見かけます。
けれど、手に取ってみると、どう見ても違うものがあります。あきらかに化学繊維の手ざわりが混ざっている。タグの数字を足していくと、カシミヤ80%、ヤク40%で、合計が120%になっているものさえありました。
タグは、いつも正しいとはかぎらない。産地のただなかに立って、改めてそのことを考えさせられました。今回は、旅のなかで思った、「本物」のはなしです。
プロでも、触っただけではわからない
ezuのモンゴルのメンバーには、元国営カシミヤ会社で10年近く経験を積んだ、繊維の専門家がいます。その目と手をもってしても、触っただけで本物かどうかを断定することはできません。仮に本物の毛だったとしても、どんな品質の毛が、どのように処理されているのかまでは、製品の表面からは読み取れないのです。
たとえば、犬や猫の毛が混ざっていても、見た目や手ざわりでは、まずわかりません。同じように、やわらかいからです。しかも、偽物をつくろうとした人がいるとも限りません。工房自身が「カシミヤ100%」として糸を仕入れ、本物だと信じて製品をつくる。けれどその糸の出どころまでは、工房にもわからない。そういうことが、この世界では実際に起きています。
わたしたち自身にも、経験があります。シルクだと思って仕入れた糸で製品をつくり、染めたとき、染まらずに白く残る点々が、ちらちらと浮かび上がってきました。ポリエステルです。混率にすれば、0.1%ほど。紡績のどこかで静電気で紛れ込んだのか、それとも誰かが混ぜたのか。いまとなっては、辿ることができません。売った側もきっと、本物だと思っていたはずです。
これは、わたしたちだけの実感ではありません。カシミヤの鑑別は本来、タンパク質やDNAを解析する専門機関の仕事で、その試験方法が国際規格になるほど、専門的な世界です。日本でも過去に、行政の商品テストで、表示と実際の混率が大きく異なる製品がいくつも見つかったことがあります。
「触ればわかる」とは、わたしたちは言いません。言い切れないからこそ、別の方法で確かめることにしています。
燃やすと、正体があらわれる
手元にある糸や毛を確かめる方法が、ひとつあります。繊維をほんの少しだけ取って、燃やしてみることです。
獣毛は、人の髪と同じタンパク質でできています。だから燃やすと、髪の毛が焦げたときと同じ匂いがします。そしてあとには、指でつぶすとポロポロと崩れる、脆い塊が残ります。
いっぽう化学繊維は、燃えるというより、溶けます。あとに残るのは、ゴムのように固まった硬い塊。匂いも、焦げた髪とはまったく違います。
ただし、火でわかるのは、ここまでです。犬や猫の毛も同じ動物の毛なので、同じように燃えて、同じ匂いがします。カシミヤかどうか、どの動物の毛なのかまでは、火では判別できません。その先は、専門機関の分析の世界です。
わたしたちも旅先で糸を確かめるとき、この方法を使うことがあります。ただし火を使うので、試すときは水のそばで、ひとつまみだけ。そして当然ながら、売り場の製品で試すわけにはいきません。だからこれは手元の素材のための最後の確認手段で、いちばん大切なことは、別にあります。
いちばん確かなのは、現場に行くこと
結局のところ、いちばん確かな方法は、つくっている現場へ行くことだと思っています。
その工場や工房が、どのように作っているかを自分の目で見る。仕入れている糸の来歴をたどって確認する。現場長や社長がどんな人柄かを、対話のなかで感じる。そして、人づての信頼できる関係性から、ご縁をいただく。
モンゴルには、大きいものから小さいものまで、170を超えるカシミヤの工房があると、メンバーは教えてくれました。いっぽうで、原料から糸まで一貫して手がける国内の大手は、数社だけ。その大手も近年は自社のぶんで手一杯になり、糸をほとんど外へ売らなくなりました。だから、小さな工房が使う糸の出どころは、一軒ごとに違います。昔からの信頼できるルートで原料を集め、自分のところで糸を紡いでいる工場も、たしかにあります。そういう工場の糸には、正直な値段がついています。
タグは書き換えられても、現場は嘘をつけません。機械の並び、毛の山、働く人の手つき。そこには、その工房が何を大切にしているかが、そのまま表れています。
草原から、たどれる毛
そうして現場を訪ね歩いた先で、ezuはひとつの工場と出会いました。ウランバートルで33年、天然繊維ひとすじに歩いてきた、パートナーのカシミヤ工場です。
この工場には、創業のときからずっと二人三脚で歩んできた相手がいます。刈られたばかりの原毛を何度も洗い、汚れを落とし、繊維の向きを整える。糸になる前の毛を仕上げる、整毛(せいもう)の専門工場です。
その整毛工場は、草原の遊牧民たちと、長い信頼で結ばれています。地域ごとにつき合う遊牧民が決まっていて、毛を受け取る前に、先に対価を払う。だから遊牧民は、安心して毛を育てられます。ときには技術者が草原まで出向いて、毛の採り方や、部位ごとの分け方を伝えることもある。この毛がどこの草原で、誰の手で採られたのか。来歴を、たどることができるのです。
遊牧民の手から、整毛工場へ。整毛工場から、パートナーの工場へ。そしてその工場が、糸から織り、最後の仕上げまでを一貫してやりきる。人の信頼でつながったこの道筋が、わたしたちがこの旅で確かめてきた、本物の毛のルートです。この工場のことは、糸から、つくる。33年のカシミヤ工場と提携しましたの記事にくわしく書きました。
わたしたちが、していること
だからわたしたちは、モンゴルの工房をひとつずつ訪ね、なんども対話を重ねています。そしてこれからも、なんどでも、現場まで足を運ぶつもりです。
お客さまが売り場で手にする一着から、産地の現実は見えません。見えないからこそ、わたしたちが産地に立ち、自分の目と手で確かめる。そうして確かめられた素材だけで、冬のものをつくる。それが、遠く離れたお客さまとの、いちばん誠実な約束の果たし方だと思っています。
それでも、選ぶときのために
最後に、あなたがどこかでカシミヤやヤクの製品に出会ったときのために。わたしたちが大切だと思うことを、いくつか置いておきます。
タグの数字を、足してみてください。混率の合計は、100%になっているはずです。
極端に安いものには、一度立ち止まってみてください。櫛で梳き取り、手で選別する毛には、どうしても手と時間の値段がかかります。
そして、その売り手が素材のことをどれだけ語れるか、耳を傾けてみてください。どこの毛で、誰が、どうつくったのか。答えられる売り手は、現場とつながっています。
タグではなく、人を信じる。それが、遠回りのようでいちばん確かな、本物への近道だと思います。
カシミヤという素材のことは櫛で梳きとる、やわらかさ カシミヤという素材に、ウール、カシミヤ、ヤク、キャメルの持ち味くらべは草原の4つの毛のはなしに。モンゴルの旅のはじまりは、雄大な大地モンゴルへ、冬の素材と手仕事に会いに来ましたの記事にまとめています。