櫛で梳きとる、やわらかさ カシミヤという素材

櫛で梳きとる、やわらかさ カシミヤという素材

カシミヤ、という名前は、たぶん誰もが知っています。セーターの売り場でいちばん高いところにいて、ふれると、たしかにいちばんやわらかい。

けれど、その毛がどの動物の、体のどこに生えていて、どうやって集められているのか。そこまでは、あまり知られていません。

モンゴルの旅で、わたしたちはカシミヤの産地のただなかに立ちました。今回は、四つの毛のなかでもっとも細い毛、カシミヤのはなしです。

山羊や家畜たちが草を食む、モンゴルの草原

粗い毛の、内側に

カシミヤは、山羊の毛です。ただし、体の表面を覆う粗い毛のことではありません。マイナス40度にもなる冬から身を守るために、山羊が粗い毛の内側に生やす、細くやわらかい産毛。それがカシミヤです。

外側の粗い毛は「刺し毛」と呼ばれます。人の髪のように硬く、まっすぐ。この刺し毛が風と雪を受け止め、内側の産毛が体温を抱きこむ。二層の毛で、山羊は冬を越します。

わたしたちが冬にまとうのは、その内側の、体温を抱きこんでいた方の毛です。

淡いベージュの、やわらかなカシミヤの産毛

子山羊を、抱かせてもらった

今回の旅では、子山羊にふれる機会がありました。ふわっとやわらかく、あたたかい体。抱きしめると、生まれたての小鳥の羽毛のような手ざわりに、感動しました。

毛をそっと掻き分けると、その奥に、さらにやわらかな産毛がありました。これまで世界中でふれてきた素材のなかで、いちばんのやわらかさだと感じました。

草原で、子山羊を抱かせてもらいました

櫛で、梳き取る

カシミヤの収穫は、ウールのようにバリカンで刈る形では行われません。刈ってしまうと、硬い刺し毛が一緒に混ざってしまうからです。

春、冬を越した産毛が自然と抜けはじめる頃、その毛だけを櫛でそっと梳き取っていきます。それでも混ざってしまう刺し毛は、工場で一本一本、手作業で選別します。一頭から採れる毛のうち、最後にカシミヤとして残るのは半分ほど。セーター一着ぶんの毛を集めるには、山羊が何頭も要ります。

カシミヤが特別に高価なのは、この途方もない手間の積み重ねゆえです。やわらかさの値段というより、手と時間の値段だといえます。

そして、この旅で教わったことがあります。子山羊の毛は、いま櫛で梳いてしまうと、マイナス40度の冬を越せません。体が強くなるまで、あと一年、成長を見守る。そして来年の夏、生え替わりの時期に合わせて梳かして、涼しくしてあげるのだそうです。

ちいさな命を、極寒からしっかりと守る毛。カシミヤのやわらかさの奥では、生命の神秘と呼びたくなるような仕組みが働いていました。

毛を掻き分けると、奥にやわらかな産毛

細さがつくる、軽いあたたかさ

カシミヤの繊維は、四つの毛のなかでもっとも細く、やわらかく、軽い。細い毛が寄り集まって、たっぷりと空気を抱きこむので、薄くて軽いのに、しっかりとあたたかい編み物になります。チクチクしにくく、肌に直接ふれるセーターやマフラーに選ばれるのは、この細さのおかげです。

いっぽうで、細いということは、デリケートだということでもあります。強さを求められる場所には向きません。だからコットンやシルク、ウール、そしてヤクの糸と合わせて、丈夫さを補いながら編むこともあります。やわらかさを生かす場所を、人が考えて選んでいく毛です。

もし着ていてチクッとしたら、それは選別を逃れた刺し毛が、一本紛れこんでいる印です。見つけたら、引っぱらずに、そっと抜いてあげる。そうやって少しずつ、自分のカシミヤを育てていくのだと、現地で教わりました。

やわらかく起毛した、カシミヤの生地

カシミヤの、ふるさとで

カシミヤの生産量の世界第1位は中国、なかでも内モンゴル自治区。第2位がモンゴルです。つまり、モンゴルを含むこの一帯こそが、世界のカシミヤを育てている一大拠点です。

カシミヤ山羊は、囲いのなかで飼って増やせる動物ではありません。放牧の自然のなかで、マイナス40度の冬と乾いた夏を行き来してはじめて、あの細い産毛が育ちます。カシミヤという素材は、この土地の気候そのものが育てているのだと、メンバーは教えてくれました。

ezuのモンゴルのメンバーには、モンゴルの元国営カシミヤ会社で10年近く経験を積み、日本の百貨店へモンゴルを代表してカシミヤを卸してきた、繊維の専門家がいます。どの毛を、どの職人の手で、どんな冬のものにするか。その目利きと一緒に、いま素材を選んでいます。

旅先で、仕入れる糸を火で確かめている様子は、動画でもご覧いただけます。獣毛は人の髪と同じタンパク質なので、燃やすと髪の焦げる匂いがして、脆い塊が残ります。

同時に、この土地で考えなければいけないこともあります。カシミヤは高く売れるため、山羊は増え続けてきました。けれど山羊は草を根まで食べてしまうので、増えすぎると草原が痩せていきます。やわらかい毛の向こうにある草原の未来まで含めて、ひとつひとつ選んでいきたいと思っています。

生成りのカシミヤの糸玉

四つの色の、山羊

カシミヤ山羊の毛色は、一頭一頭ちがいます。原色は大きく分けて四つ。ホワイト、グレー、ブラウン、そしてブラックです。草原で見える山羊の色は、外側の刺し毛の色。内側の産毛は、それよりひとつ落ち着いた、静かな色をしています。

いちばん重宝されてきたのはホワイトです。毛が細くやわらかいうえに、どんな色にも染めやすいから。グレーには自然な濃淡があって、落ち着いた色合い。ブラウンはキャメルに近いあたたかな色で、染めずにそのまま活かされることもあります。グレーやブラックの毛がとれる山羊は数が少なく、希少な色です。

染めない原色のままのカシミヤは、「無染色カシミヤ」と呼ばれます。染色のダメージを受けていないぶん、カシミヤ本来の風合いとやわらかさが、そのまま残っている。ezuはウールと同じように、余計な処理をできるだけせず、原色の美しさを引き出したまま使います。山羊がまとっていた色を、そのまま冬の色に。

手のひらの上の、カシミヤの原色のサンプル

カシミヤと、ezuの冬

いま、モンゴルの工房や職人の皆さんと、この土地の毛をつかった冬の手仕事の話を進めています。糸は、33年のカシミヤ工場と手を組んで、選び抜いていきます。カシミヤの持ち場は、肌にいちばん近いところ。セーターやマフラーのような、素肌のそばで一日を過ごすものに向いた毛です。

旅のはじまりの様子は雄大な大地モンゴルへ、冬の素材と手仕事に会いに来ましたに。ウール、カシミヤ、ヤクキャメルの持ち味くらべは草原の4つの毛のはなしに。そして畑と繭から生まれる繊維のことは、4つの天然繊維のはなしにまとめています。

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