「キャメル」という色の名前を、聞いたことがあると思います。コートやニットの、あの深みのあるベージュ。じつはあれは、素材の名前がそのまま色の名前になったものです。ラクダの毛、キャメル。
染めてつくった色ではありません。ラクダがまとっている毛の色が、そのまま「キャメル色」と呼ばれるようになりました。ひとつの素材の色が、世界共通の色の名前になる。そんな毛は、ほかにあまり見当たりません。
モンゴルの旅で、わたしたちはこの毛に出会いました。今回は、草原と砂漠のあいだを生きる毛、キャメルのはなしです。
ふたつのこぶと、ゴビの冬
モンゴルのラクダは、こぶがふたつあるフタコブラクダです。おもに暮らしているのは、国の南に広がるゴビの乾いた土地。夏は焼けるように暑く、冬はマイナス30度を下回ります。
こぶの中身は、水ではなく脂肪です。食べものの少ない季節を、ここに蓄えたエネルギーでしのぎます。そして体を包む毛は、冬の寒さからだけでなく、夏の強い日差しからも体を守っています。暑さと寒さ、その両方を生きるための毛です。
ラクダの背中で
今回の旅で、初めてラクダの背中に乗せてもらいました。
こぶを両手でつかんだ瞬間、思い出したものがあります。昔、愛用していたキャメルのブランケットです。しっかりとした手ごたえのある手ざわり。艶やかで、コーティングされたようなコシのある質感。ラクダの体温をとおして、あのあたたかい一枚の記憶が蘇ってきました。
ブランケットのあのコシとぬくもりは、もともと、この背中のものでした。素材の記憶を、生きている体のほうから思い出す。そんな出会い方をした毛は、初めてです。
春、まとまって抜ける毛
キャメルの収穫は、ヤクと同じく、春の換毛期です。冬をしのいだ毛が浮き上がり、房になって抜けはじめる。その毛を集め、櫛で梳き取って、一年分の収穫にします。
毛には、内と外があります。外側は、長くて粗い毛。内側には、細かくやわらかい産毛。衣服の糸になるのは、おもに内側の産毛のほうです。なかでも、生まれて間もない子ラクダの毛はいちだんと細く、「ベビーキャメル」と呼ばれて大切にされています。
張りと強さが、持ち場
キャメルの毛は、カシミヤやヤクとくらべると太めで、しっかりとした張りがあります。やわらかさを競う毛ではありません。そのかわり、丈夫で、へたりにくく、あたたかい。こぶをつかんだ手のひらに残っている、あの手ごたえです。
繊維の表面はなめらかで、ウールのような「スケール」がほとんどありません。だから、キャメルはフェルトになることができません。けれどそのなめらかさが、キャメル特有の、やわらかな光沢を生んでいます。
この持ち味が生きるのは、コート、厚手の編み物、そして靴下。体を張って寒さを受け止める、いちばん外側の仕事です。ラクダが自分の身にまとっていたとおりの役割を、衣服になっても続けている毛だといえます。
染めない色のうつくしさ
キャメルの糸は、染めなくても、もうあの色をしています。淡いベージュから、蜂蜜のような茶色まで。ヤクのブラウンやグレーがそうであるように、動物がまとっていた色が、そのまま糸の色になります。
色の名前になるほど、世界じゅうで愛されてきた色。その原点は、ゴビの砂と枯れ草の風景に溶け込む、ラクダの体の色でした。
キャメルと、ezuの冬
いま、モンゴルの工房や職人の皆さんと、この土地の毛をつかった冬の手仕事の話を進めています。キャメルは、丈夫さとあたたかさの両方が要る、靴下や厚手の編み物にいちばん向いた毛だと感じています。
旅のはじまりの様子は雄大な大地モンゴルへ、冬の素材と手仕事に会いに来ましたに。ウール、カシミヤ、ヤク、キャメルの持ち味くらべは草原の4つの毛のはなしに。そして畑と繭から生まれる繊維のことは、4つの天然繊維のはなしにまとめています。